神社の祭礼のときの出し物として、だんじりや曳き山のように、車輪
のついた重量構造物を、大勢の人が綱で曳き歩くものの場合は、鳴り物
のリズムに合わせて、唄いながら曳き歩く、という例は別段珍しくはな
い。しかし、車輪の無い構造物を、大勢の者が威勢よく異き回り練り歩
く形態の出しものの場合は、威勢の良い掛け声だけで歩調を合わせて、
界き歩くのが通例である。
どこにでもよくある神輿の場合だと、通常「ワッショイワッショイ」
ふとんなどと、また、布団太鼓(太鼓台)ならば$例えば、「チョーサジャ、ヨ
イヤサジャ」とか、あるいは「ベーラベーラ、ベラショッショ」などと、
掛け声に合わせて練り歩く。それは大阪地方だけに限ったことではない。
たとえば、青森地方のネブタやネ。ブタでも,「ラッセーラッセー、ラッセ
ーラ」といった掛け声に、歩調を合わせるだけで、殊さら特有の歌や音頭
が唄われるということはない。
それに比べると、この「だいがく」の場合は、本来の「大だいがく」は、
こんにちでこそ界き回ることはなくなったけれども、かつて全盛期であ
こつ↑誤
った明治のころは、難波や木津から勝間(生根神社のある、こんにちの玉
出)にかけて、数台の「だいがく」が存在し、かなりの重量物で、しかも
丈が高く、したがって重心の位置も高く、風の力をもろに受ける、不安
定な構造物であるにもかかわらず、唄われる音頭とともに練り歩き(とい
っても、音頭のリズムに合わせて歩調をとる、という程でもなくて、かな
り自由に歩き)、界き手が掛け声(嚇し言葉)を掛けるときには、幾らか
それに呼応した歩調で鼻き歩く、という特異な様態の出し物で、ほかには
あまり類例を見ない。
したがって、「だいがく音頭」と呼ばれているこの「だいがく」特有の音
頭は、他の踊り音頭などとはまた違って、幾つもの異った特徴を備えて
じんくこうた
いる。ただ、歌詞は、基本的には甚句形式または小唄形式とも呼ばれる、
ひと節の字数が七七七五の、いわゆる二十六字詩である。しかし、関西
の盆踊り音頭によく使われている”くどき“ネタ、つまり叙事詩(物語り
詩)は全く用いられず、専ら”ながし“ネタ、つまり杼情詩が用いられて
いる。もっとも、この生根神社の祭礼用に作られた詩も、幾つか有るが、
それ以外にもいろいろな詩が雑多に用いられ、他の歌・音曲の歌詞で、
使えそうなものは何でもどしどし持ち込まれている、という感じである。
もちろん新作も有り得る